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【ファイルG2】アイヴィー・リーグ雑感 2006.08.30


【ファイルG2】2006.08.30 アイヴィー・リーグ雑感
 
 スジャータちゃんの『セレブってなあに?』(その1・その2)いかがでしたでしょうか。

 ここでは、作品を書いていた時に思ったことを書きます。

 今回のお話では、アイヴィー・リーグが出てきます。アイヴィー・リーグはここに出てくるMIT(マサチューセッツ工科大学)以外の8大学、すなわちハーバード、プリンストン、イェール、コロンビア、コーネル、ダートマス、ブラウン、ペンシルバニアを指します。早い話が、アメリカのエリート大学です。東京六大学(東大、慶応、早稲田、立教、明治、法政)みたいなものといえば、少し違うような気がします。
 8大学とも、超難関校です。野村サッチーがコロンビア大学を出たの出ないのという話がありましたね。
 もちろん、東京六大学の方がアイヴィー・リーグのマネをしたのでしょうが・・・・。

 アイヴィー・リーグといえば、アイビー・ファッションですよね。
 アイビー・ルックというファッションが今、定年退職を迎えている世代の人達、いわゆる団塊の世代が若い頃に大流行しました。その中心的存在だったのが、株式会社ヴァンヂャケット(VAN)です。この会社は、団塊の世代がおじさん・おばさんになった1978年に一度倒産をしています。

 ですけど、アイビー・ファッションの本家、ブルックスブラザーズの紺のブレザーはいまだに定番アイテムですよね。
 ブルックスブラザーズはケネディ家愛用のブランドで、ジョン・フィッツジェラルド・ ケネディ大統領(J.F.Kですが、彼は阪神タイガースには在籍しておりません)は暗殺された時にもお気に入りのブルックスブラザーズのシャツを着ていたという話を聞いたことがあります。

 スジャータちゃんは『プレッピーの洟垂れ坊主』と悪口を言っていますが、プレッピーとは、アメリカの特権階級、いわゆるWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントのエリート)が通学するプレップスクールから、アイビーリーグに進学する人達を言います。

 ハーバード大学のプレッピーといえば、1970年のアメリカ映画『ある愛の詩(うた)』の主人公を思い出します。
 この映画は、話の展開は強引ですが、音楽と風景の美しさは一見の価値があります。この映画を観たことが無い人でも、フランシス・レイの美しいテーマ音楽は聴いたことはあるはずです。聴けば、『ああ、あの曲ね』と思い出すことでしょう。
 フランシス・レイを起用したのは、お菓子屋の娘ジェニー役のアリ・マックグロウです。彼女は当時、本作のプロデューサーと結婚しており(離婚後に、『ゲッタウェイ』で共演したスティーヴ・マックイーンと結婚)フランシス・レイの『白い恋人たち(クロード・ルルーシュ監督のグルノーブル冬季オリンピックの記録映画。北海道みやげのチョコレート菓子とは無関係)』の音楽を聴いて感動し、音楽担当を彼にするよう、夫に進言したそうです。

 男の方は、大富豪(一族がハーバードに寄付した建物あり。因みに、東京大学安田講堂は、ジョン・レノンの妻だった、オノ・ヨーコの実家である安田財閥が寄付した重要文化財)の息子で弁護士志望のライアン・オニール(『バリー・リンドン』『ペーパームーン』で好演)扮するハーバード大学生オリヴァーです。

 二人の出会いはオリヴァーが、期末試験の勉強をしに、ジェニーが通学し、受付のアルバイトをしているラドクリフ大学の図書館に行くところから始まります。

 部屋に埋もれたエリック・シーガルの原作本を探すのが不可能なので、その時の情景を、私の記憶と、捏造を交え再現します。

『この本を借りたいんだけど・・・・』
『あなた、うちの大学じゃないわね。あなたの大学の図書館の方が大きいじゃないのさ。嫌味なの?』
『でも、ハーバードの学生も、ここの図書館を利用できることになってたよね?』
『それはそうだけど・・・・。プレッピーの坊やは、わざわざうちに来なくてもいいじゃない』
『プレッピーって言うの、やめてもらえないかな?』
『どうして?気に障った?あなたは、おぼっちゃんで、おばかさんのプレッピーじゃないのさ』
『どうして、ばかなんだよ』
『だって、あなたたちって、すぐ女の子をデートに誘おうとするじゃない』
『でも、僕は君のこと、デートに誘ったりなんかしないよ』
『だから、あなたは、おばかさんなのよ!』

 そんなこんなで、二人は恋人になり、結婚をします。ただし、オリヴァーの父親は『身分が違いすぎる』といって、大反対の末、オリヴァーを勘当します。
 オリヴァーは、大学のアイスホッケーの選手で、コーネルだか、ダートマスだかと試合をするシーンがあって、ここでアイヴィーリーグの雰囲気を堪能できます。

 ジェニーはハープシコード(チェンバロ)を勉強しています。彼女がバッハのブランデンブルグ協奏曲を演奏するシーンが挿入されています。演奏は、あんまりうまくありません。日本の音大生なら、これより上手な人がごろごろいます。

 彼女の夢は、ヨーロッパで音楽の勉強をすることですが、オリヴァーと結婚したものの、彼が家を追い出されて無一文になったため、夢を諦めて、オリヴァーが勉強に専念し、ハーバードを卒業できるように、アルバイトに奔走します。
 おかげで、オリヴァーは2位の成績で卒業し(1位はユダヤ人)、一流の法律事務所に、高給で雇われることになります。アメリカの学歴社会は過酷で、卒業した大学の、成績の席次で、就職先が決まったりします。

 このパターンは、アメリカの庶民の女性がセレブになるための典型的なパターンです。
 彼女たちは、大学で、出世しそうな秀才の男子学生を血眼になって物色します。そして、ターゲットが決まったら、結婚して、ジェニーのように献身的に夫の勉強に協力し、やがて、『一流弁護士婦人』の地位を獲得するのです。セレブへの道のりは厳しいのです。
 日本のマスコミは、視聴率が稼げるので、しきりにセレブの番組を放映しますが、『共働きより、優雅な主婦の方が素敵だ』という事実をどういうわけか隠したがります。何故でしょう?

 そんなことを思いながら、この話を書きました。

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【ファイルG1】黒子からのご挨拶 2006.08.28


【ファイルG1】2006.08.28 黒子からのご挨拶

 はじめまして、私は、眼とろん星人のゴーストライターを勤めさせていただいております、『黒子』です。地球人です。私は本来、『眼とろん星人ダッシュ』というべき存在ですが、やはり『眼とろん星人』とお呼びいただくことにいたしましょう。

 今、ここに『創作雑記帳』のコーナーを新設いたしました。奇しくも、HIT数、1000件突破という記念すべきタイミングとほぼ時期を同じくすることになりました。これまで当『アトモス部屋』にご来訪いただいた、すべての皆様に感謝いたします。

『余禄と補遺』というのは、ショーペンハウエルの箴言集『パレルガ・ウント・パラリポメナ』の邦訳と同一のタイトルです。
 私は『余禄と補遺』の部分訳の『女について』とか『幸福について』とか文庫でバラバラに出ていたものを、大昔に愛読しておりました。彼の主著の『意志と表象としての世界』は、購入しましたが、読了せずに放置されたまま、部屋の中で埋蔵文化財と化しました。

 ですが、この雑記帳とショーペンハウエルに何か関連性はあるのかと聞かれると、答えに窮します。
 ただ、アトモス部屋の『ファイル1』の厭世的な雰囲気は、多分にショーペンハウエルの影を宿しているのではないかという気がしないでもありません。
 私はラ・ロシュフーコーも愛読していたのですが、彼の箴言集のタイトルが『箴言集』という『なんだよー。そのまんまじゃんか!少しはひねれよ』という身も蓋もないタイトルなので、しょーぺんはうえるの方を採用いたしました。

 なぜ、このようなコーナーを新設したかというと、その理由について、私自身、いろいろ思い当たるフシがあります。

①すでに『アトモス部屋 本編』はファイル10まで進んでいますが、途中から読み始めた人は何のことやらさっぱり分からん!最初から読んでいる人はもっと分からんのではないかという危惧を抱くに至ったから。
 それで、少し私からの解説や注釈を加える必要があるのではないかと考え始めたから。

②『アトモス部屋』本編のアイデアに行き詰った時、とりあえず、身辺雑記等でお茶を濁せばなんとかなるのではないかという甘い考えに、抗し切れなかったから。

③『余禄と補遺』というショーペンハウエルの著作の題名を使用することにより、学があるところをひけらかしたかったから。あるいは、ショーペンハウエルの虎の威を借りたかったから。

④日常における瑣事において、感じたことを皆さんと共有したいと思ったから。

⑤ヒロインのスジャータちゃんが、私を含めた普通の人にとって少し嫌味な存在になってきたので、読者の皆さんのガス抜きを図りたかったから。

⑥今後、アップの遅れとか、作品のテーマが皆さんの不興をかう可能性がかなりの蓋然性でもって予測されるので、先手を打って、言い訳・謝罪の行えるコーナーを新設する必要を強く感じるに至ったから。

⑦いただいたコメントの返事を書く際、ある程度の分量を書いた方が親切かな?と思ったことがあったから。

⑧さすがに字ばかりの小説だけではしんどいかな。ビジュアル面の強化も必要ではないかなと思い始めたから。

⑨作品だけ表に出てズルイ!作者も目立ちたい!と思ったから。

 こんなところかな?

 このコーナー最初のお仕事。

解 説
 このコーナーのファイルナンバーには頭に『G』がついています。これは『ゴーストライター』の意です。
 ちなみに『まあくんの部屋』には『K』がついていますが、これは、まあくんが『格闘家』のためです。皆さん、お気づきになられましたでしょうか?

 今後とも『アトモス部屋』をお引き立ていただきますと共に、このコーナーもよろしくお願いいたします。

【ファイル10】スジャータちゃんの『セレブってなあに?』(その2) 2006.08.28



【ファイル10】2006.08.28 スジャータちゃんの『セレブってなあに?』(その2)

 シルベさんはやっとことで這い上がると、気を取り直してスジャータちゃんに尋ねた。
「君ねえ、ハーバードだろう?あそこは入るのも出るのも大変なところだろ?」

「ううん。そんなことないよ。お父さんが毎年寄付してるから、簡単に入れてもらったし、スジャータって頭悪いから、すぐに追い出されちゃった」
 それを聞いて、それまでシルベさんとスジャータちゃんの遣り取りを微笑みながら聞いていたドブロクスキー博士が、激しく首を振って怒り出した。

「スジャータちゃん。冗談もほどほどにしなさい。ワシは知っているのじゃ!」
「えっ。なにを?」
「ハーバード大学にフランシタイン博士という友人がおってな」

「腐乱死体博士?」シルベさんが場を和ませようとした一言に、博士は、怒りの一瞥で応えた。

「そのフランシタイン博士が、天皇陛下が開会挨拶をなさった首相列席の東京での国際経済会議に来日していた折にばったりと出会ったのじゃ。彼は開口一番、おまえの教え子にスジャータという女の子はおらんかと聞きよってな。びっくりして、事情を聞くと、毎年莫大な寄付をするし、ワシの秘蔵っ子だということなので、無試験で入れたら、それがとんでもなく勉強ができる学生で、ハーバードで教えることがなくなって、すぐに卒業させたということじゃ。
 ワシもその話を聞いて、少々鼻が高かったがな・・・・」

「ふーん。お爺ちゃんは何でもお見通しだね。参っちゃったな。でも怒ることないじゃん。スジャータって自慢の教え子なんでしょ?
 そういえば、私が小学校一年生の時も怒ったね。スジャータが『インフレーション理論』についてお爺ちゃんに質問した時」
「そうじゃったのう。ワシは怒ったものの、結局、正しかったのはスジャータちゃんのほうじゃった」
「うん。あの頃からスジャータ、数学には自信があったから」

「へえ、小学校一年生の時に『インフレーション理論』か。スジャータちゃんはその頃から経済学に興味があったんだね。栴檀は双葉より芳しというやつだ」シルベさんが口を挟んだ。

「違うよ」
「でも、インフレーションでしょ」
「違うよお、ビッグバンのだよ」
「だから、金融ビッグバンでしょ」
「金融ビッグバンじゃなくて、宇宙開闢の方の本物のビッグバンだよお。経済のインフレーションじゃなくて、理論物理学の方のインフレーション理論だよ。日本の佐藤勝彦博士のインフレーション理論だよ。シルベさんたら知らないの?佐藤博士って、ノーベル賞級の学者さんだよ。やだー、信じられないー」

「すみません。いらぬ口を挟みまして」
 可哀想にシルベさんは、バケツの水を浴びせられた野良犬のように、すっかりしょげかえってしまった。それを無視して、二人の応酬は続くのだった。
「それにしても、あれはスジャータちゃんの前提の立て方も、少し紛らわしかったぞ」
「そんなことないよお。あの時スジャータがおじいちゃんに聞いた数式モデルはこうだもん」

 スジャータちゃんは何ものかに取り憑かれたかのように、一心不乱に紙切れに数式を書き始めた。

「だからのう。その恒等式をそう書いたら、このパラメーターがこういう理解になるじゃろうが」
「だってえ、それは与件だから、この変数の解を求めようとしたら、こっちの方程式もこう導入しなきゃならなくなるでしょ。おじいちゃんの言うのはこっちの変換がおかしいじゃない」
「おかしくないぞ」
 ドブロクスキー博士もかなりむきになっていた。二人とも喧嘩越しで、数式を書きなぐりながら喚きあった。まさに鬼気迫る師弟対決に、他人の介在する余地は一切無かった。
 ノレン君は、その喧騒をよそに、平然とアラビア語で書かれたアリストテレスを読んでいる。

「眼とろん星人さん、どっちが正しい?」
 議論の紛糾の果て、ついにスジャータちゃんが私に判定を仰いだ。

「うーん。今の議論を聴く限りでは、スジャータちゃんのほうに分があるかな」
「ほーらみてみなさい」
 スジャータちゃんは得意そうに、可愛らしい鼻をぴくぴくうごめかした。

「そうか。それでわかった・・・・」博士は肩を落としてそう言った。
「スジャータちゃん。良く聴きなさい。君はフランシタイン博士にも、今みたいにやったのかい?」
「だって、あの先生、経済学者のくせに数学ができないんだもの。それを、レトリックで誤魔化そうとするもんだから、論争でやっつけちゃった」

 ドブロクスキー博士はそれを聴いて大きな溜息をついた。
「あのなあ、スジャータちゃん。経済学者のくせにじゃないんだ。
 そもそも、経済学者というのは、大体において数学が苦手なものなんじゃ。そして、そのことに対して大きなコンプレックスを持っておるのが常なんじゃ。
 それで、博士をこてんぱんにやったのかい?」
「うん。完膚なきまでにやっちゃった」
「ああ、スジャータちゃんならそうだろうなあ・・・・。数学の天才といわれたワシを小学校一年生で負かすんだからなあ。フランシタイン博士の数学の実力だったら、赤子の手を捻るようなもんだろうなあ。教え子といいながら、実質的に助手を務めてくれてたものなあ、小学生で。それも、ワシが生涯で持った一番優秀な助手だったものなあ。ほとんど、共同研究者だったものなあ・・・・」
 博士は、虚空を仰いで嘆息した。

「スジャータって、何か悪いことした?」スジャータちゃんはきょとんとしている。
「悪くは無い。悪いのはスジャータちゃんのような小娘に言い負かされたフランシタイン博士のほうだ。 そして、本当に悪いのは、スジャータちゃんに大切なことを教えなかったワシなのかもしれん。しかしなあ・・・・」
「しかしって何よ。だって、スジャータに学問は、あくまで厳密でなきゃだめだって言ったのはお爺ちゃんじゃないの。学問は厳しいって、妥協は許されないって言ってたでしょ」

「ワシは親しい友人を一人失ったのかもしれん」
 ドブロクスキー博士は、長い沈黙の後、言葉を絞り出すように、そして寂しそうにぽつりと呟いた。

「これは、フランシタイン博士の伝言だが、ロースクールにも君に教えることはもう何も残ってないから、来る必要が無いって」
「えーっ。行こうと思ってたのにい。じゃあ、物理学を勉強しようっと」
「ダメだ。ハーバードは勿論、MITもだ」
「どおしてえ?つまんないよー。スジャータ、勉強がしたいよー。ものすごく勉強がしたいよー。勉強が大好きだよー」
「プリンストンも、イェールも、コロンビアも、コーネルも、ダートマスも、ブラウンも、ペンシルバニアもダメじゃ」
「なによお。アイヴィー・リーグは全滅じゃないさあ!いいもん、プレッピーの洟垂れ坊主なんかどうでもいいよ!」
「エコール・ノルマル・シュペリウールもだ」
「あそこは別にいいもん。スジャータ、サルトルやボーヴォワールは嫌いだから。アンガージュマンって何さ、ばっかみたい」
「勿論、オックスフォードもケンブリッジもだ」
「そこまでダメを押さなくてもいいじゃない。意地悪ねえ。じゃあいいもん。スジャータ、東京大学に行くもん。そのほうが近くて便利だもん。えらい先生もいるもん」
「それはもっとダメ!スジャータちゃんはもう大学で学ばなくてもよろしい。研究者の道を歩みなさい」
「じゃあ、またお爺ちゃんの助手になーろおっと。きーめたっと」
「ワシより数学のできる助手なんぞいらん!」

「なにさ、お爺ちゃんのいじわる。じゃあ、スジャータやっぱり大学にいくよお」
「ダメといったらだめじゃ!スジャータちゃん、良く聴きなさい。『知にはたらけば角が立つ』って言葉を知っているね」
「夏目漱石だね。『東京帝国大学』で英語を教えてた。面白いおじさんだよね。『番茶』のことを『サーヴェッジ チー(savage《野蛮な》tea)』って英訳するんだもの」
「そうだ。・・・・・・ええい!大学のことはもうよろしい。
それで、スジャータちゃん。意味は分かるかね」
「なんとなく・・・。ううん、よく分からない・・・・。
 だから、シルベさんに、これからも庶民の事を教えてもらうの」

 みんなの視線がシルベさんに集中した。

 シルベさんは堪らずこう叫んだ。
「僕のことを、慈愛に満ちた、暖かい目で見つめるのはやめてくれ!」

【ファイル10】スジャータちゃんの『セレブってなあに?』(その1) 2006.08.26


【ファイル10】2006.08.26 スジャータちゃんの『セレブってなあに?』(その1)

 今回も前回同様、シルベさんとスジャータちゃんの会話で始まる。

「ところで、スジャータちゃんはセレブなんだね」

「なあに?セレブって。お菓子?」
「それはサブレでしょ」
「じゃあ、私のお友達でお馬さんのメークイン号のこと?」
「それはサラブレッドでしょ。ふーん。スジャータちゃんは馬主さんなんだね。お嬢様だものね。それにしても、馬の名前がジャガイモだなんて、おかしな名前だね」
「おかしくないよお。5月の女王でMAY QUEENだよ」
「えっ。そうなの?ジャガイモのメークインて、そんな意味だったの?知らなかったなあ。僕はてっきりMAKE INだと思っていた」
「シルベさんたら変なの。ちなみに女優の中村メイコさんも5月生まれだからメイコさんなんだよ。本名は五月(さつき)さんだよ」

「スジャータちゃんは妙なことに詳しいんだね。
ということは、『となりのトトロ』のサツキとメイって、そこからきたのかな?凄いなあ!中村メイコさんも、侮れないなあ。僕は、『グー・チョキ・パー』とか『ドカチン』の頃から、彼女のファンだけど・・・。
 それから僕は、かつての女流漫才師、『若井こずえ、みどり』って、『アタックNo.1』の鮎原こずえと早川みどりから採ったと睨んでいるんだけど、勉強になるなあ」

「だって、スジャータ、図書館育ちだもん!昔の雑誌も、テレビ番組のビデオも、ドーナツ盤もいっぱい持ってるもん。えっへん。

 それで、お馬さんじゃなかったら、シマウマさん?」

「それはゼブラ」
「キリンさん?」
「それはジラフ」
「それじゃあ、首長国連邦とか」
「それはアラブ」
「じゃあ、セレブって一体何よお。うーん。スジャータがセレブってことは、分かった!ひょっとして、セレブって元暴走族のこと?」

「どうして中村メイコさんを知ってて、セレブを知らないのかな。
 あのねえ、セレブって言うのはね、早い話がお金をいっぱい持っている女の人のこと」
「じゃあ、スジャータは違うよ。お金なんか全然持ってないもの。ノレンもそうでしょ?」

「俺も持ってない。無一文。ああそうだ。俺が小学校に上がった時に、友達にラジコンの飛行機と千円札を取り替えてもらったことがあったろ?」
「そうねえ。あのとき初めてお札をみたわねえ。二人でお札に書かれているお爺さんとか、透かしとか見てはしゃいでいたら、執事に取り上げられたわよね。『このような不浄なものには触らないでください』って。あれから、二人ともお風呂に入れられて、消毒させられて、主治医に予防注射されたわよね」

「分かった分かった。ああ、そうなんだ。自分で現金を持つっていうこと自体、庶民なんだ。スジャータちゃんと話していると勉強になるな」

「シルベさんたら、ずるいよお。自分だけ分かって。それにしても、お金を持ってるんだ。庶民の人達は。じゃあ、お金をいっぱい持っている人は、いっぱい庶民なんだね。

 それで分かった。公園のダンボールで寝ている人達っていうのは、いっぱい庶民だから、いっぱいお金を持っているんだ。スジャータは、あの人達、冬の寒い夜なんか、どうしているのかなあと思って心配してたけど、お金を沢山持ってるから安心なんだね。お札を燃せばあったかいものね」

「うーん。こういうのをコペルニクス的転換っていうのかな?
 スジャータちゃん。君は世の中に対して、大きな勘違いをしているよ。そこまで勘違いが酷いと、かえって気持ちが良いけど・・・・。
 あのね、スジャータちゃん。ダンボールで寝ている人達は、お金なんか持ってないの」
「じゃあ、スジャータとおんなじだ。わーい、スジャータもいっぱい庶民だ」
「どうしてそうなるのかな?それにしても、スジャータちゃんの話を聞いていると、巷でいう、『セレブ』ってのが、とても貧乏臭いものに思えてくるなあ」

「結局、セレブってなあに?」

「うーん。分からなくなってきた・・・・。

 結局、貧乏臭い成金の庶民で、目立ちたがりでテレビに出たがる女のことさ」

「あれえ。さっきと定義が変わっているじゃないさあ」
「だから、スジャータちゃんの話を聞いて、真実に目覚めたんだ」
「ずるい!さっきから、シルベさんたら自分だけ分かっちゃって、スジャータは、なんにも分からないよお」
「分からなくても良いよ」

「成金って、急に沢山お金を手に入れた人のことだね。スジャータ知ってるよ。あぶく銭だね。でも、お金を持つと、どうして目立ちたがるの?」
「だって、有名になるじゃないか」
「有名だと、何か得するの?」
「でも、有名になれるんだよ」
「有名だと不自由じゃない。好きなことやってても、人からとやかく言われるし・・・。
 私、暴走族やってた頃、少し有名になって、人からとやかくいわれて嫌だったよ」
「スジャータちゃん。君の言うことは正しい。でもね、世の中には、有名になりたいと思っている人って多いんだ。山ほどいるんだよ」
「へえー。変なのお」
「うん変だね」
「ねえ。そうだよね?」
 スジャータちゃんはきっと、とっても正しいんだとシルベさんは思った。

「それにしても、スジャータちゃんが現金を持っていないってことは、カードで支払うんだね。ゴールドとかプラチナとか」
「カードってなあに?トランプなら知ってるけど。そんなのスジャータは持ってないよ。日常品は、使用人が足りなくなったらその都度補充してくれるし、お洋服やまとまったお買い物は、お店の人が御用聞きに来てくれるし。
 外商扱いっていうのかな。後から執事のところに請求書がきてるみたいだけど。それから、小切手なら執事がいつも持ってるよ」

「でも、スジャータちゃん。それだったら、財産管理が大変だね。執事にまかせっきりというわけにもいかないだろ。会計とか習った方が良くない?」
「会計って、損益計算書とか、貸借対照表のこと?財務諸表?複式簿記のあれ?それならスジャータ、読めるし毎月見てるよ。一応、ビジネス学校にも行ったし」

「へえ、専門学校で習ったのか。勉強家なんだねえ。努力家なんだねえ。えらいねえ。えらいえらい。じゃあ、簿記の3級とか持ってるんだ。

 ちなみに、スジャータちゃんみたいなお嬢さんが通うような専門学校なんてあるの?差しさわりが無かったら、教えてよ」

「あるよ。ハーバード大学のビジネススクール。一応、公認会計士の資格も取ったよ。

 あれ?どうしたの。シルベさんたら椅子から転げ落ちちゃって。危ないなあ」

(その2へ続く)

はじめに 【ファイル0】2006.08.20



 はじめに【ファイル0】2006.08.20

 アトモス部屋にご来室、まことにありがとうございます。当ブログ管理人の眼とろん星人でございます。皆さんに心から感謝いたしますとともに、大歓迎いたします。
 まず、当部屋を開設するにあたっての、そもそもの発端・基本コンセプトにつきましては、下記のホームページ【ファイル1】をご覧下さい。

http://www.geocities.jp/metoronjr7/1/2007.07.01.htm

 ひとまず、主だった登場人物が出揃い、また、作品の世界観のアウトラインが構築されたところで、初めて訪れた方々のために、ここでアトモス部屋に集う人々のスターティング・ラインナップをご紹介いたします。

眼とろん星人:私です。地球探査中、不慮の事故から、地球滞在を余儀なくされました。

スジャータちゃん:上流階級の娘で深窓の令嬢で且つ美貌の持ち主。『箱入り娘』で元暴走族の『箱乗り娘』。

シルベ・スタスタローンさん(汁部 須田酢太月賦さん):私が、身体を地球人型に変容させた時の遺伝子モデル。彼のゲノム(遺伝子情報の総体)をもとに、私の体を地球人の姿に再合成した。スジャータちゃんの『庶民学』の先生でもある。

ジョン・ノレン君:スジャータちゃんの弟。『暖簾に腕押し』の性格から、スジャータちゃんから、そう名づけられた。

メートル・イラチッチ・ドブロクスキー博士(メーターお爺ちゃん):天才科学者。亡命白系ロシア人の孫。スジャータちゃんの恩師。

メリーさん:スジャータちゃんの執事

まあくん:スジャータちゃんのボディーガードで格闘家。

 そして、最後に一番重要な登場人物を忘れてはなりません。

ご入室いただいたみなさん:今、当ブログをご覧戴いてる、あなたのことです。コメントをお寄せくださいね。指定があれば、登場人物がお返事をさしあげます。


 アバターについて。

 当アバターは『執事のメリーさん』をイメージして作成しております。さて、後ろに控えしは、『執事のメリーさんの羊』にございます。なお、この羊については、bookwizard様より『電気(アンドロイド)羊ではないのか』という大変鋭いご指摘がありました。私は全く気がつきませんでした。機会があれば、確認したいと思います。
 ですから、これは管理人の性別を表すものではありません。管理人は美男か美女のどちらかです。いずれにせよ、管理人が眉目秀麗容姿端麗であることは、間違いありません。
『アバターもエクボ』という言葉がありますが、当管理人に限って、絶対にそのようなことはありません。ええ、ありませんとも!どうか皆様にとって、安心してお気に召す方をご想像なさってください。

 なお、当ブログを利用されるに当たり、お願いがございます。当ブログの著作権は、管理人に帰属いたします。流用・転載は一切お断りいたします。
 
 また、ブログというプライベートでありながら、極めてパブリック性の高い場に相応しくない、不快な書き込み、トラックバック等は絶対におやめ下さい。
 これは、当ブログ以外にも適応されるべき、社会人として最低限のマナー・ルールです。

 ブログの作成者は、無人島でビンに詰めた手紙を海に流すような思いで、メッセージを発信しています。その気持ちを踏み躙るような人は、断固として許すわけにはいきません。その場合、まあくんが黙っていません。見つけ次第、絞めてもらいます。

「ブログはみんなで楽しむものだよ。マナー・ルールをきちんと守ってね。スジャータからもお願いするね。お約束だよお。約束守ってくれないと、スジャータ悲しいよ。

 みんな、スジャータの活躍を楽しみにしてね。スジャータ、コメント・ゲストブック大歓迎だよお。『お気に入り』に登録してもらえたらうれしいな。
 記事の右下の『傑作』ボタンを『ぽっちん☆』ってクリックしてもらえたら、投げキッスしちゃうよお×!×!×!」
「姉貴が主人公かよ」
「ノレン、あんた生意気よ!」

 それから、元来遅筆の私ですが、とにかく登場人物の紹介がすむまで話を進めねばと思い、私にしては異例のハイペースでここまで書き飛ばしてきました。正直な話、少々バテ気味です。
 まだ、適正なペース配分が把握できていません。今の感じでは、週1回UPが妥当なペースかなとも思ってみたりしています。今後、間隔が開く場合もあろうかと思います。別に先を急ぐ旅でもないので、気長にボチボチと見守ってやってくださいね。

 最後に、当ブログシステムを作成・管理・提供・運営いただいておりますYahoo!様に、深甚なる感謝と敬意を表します。

【ファイル9】スジャータちゃん初めてのお買い物 2006.08.20


【ファイル9】2006.08.20 スジャータちゃん初めてのお買い物

 今日は、さっそくスジャータちゃんがシルベさんに庶民学の指南を受けた。

「あのねえ、シルベ先生。スジャータ生まれて初めてお買い物に行ったの」
「へえ、えらいえらい」
「プレタポルテっていう、お洋服買おうと思って・・・・」
「高級既製服のことだね。レディー・メイドともいうね」
「庶民の生活を体験しようと思って、青山のお店に行ってきたの」
「高級な場所だね。それ庶民の買い物するとこじゃないよ」
「そうなんだあ。スジャータったら失敗しちゃった。それで、いろんなお洋服がいっぱいお店に並んでて、とっても綺麗。そんでもって、お店の人が、いろいろお世辞をいってくれるの」
「スジャータちゃんの場合、あながちお世辞とも言い切れないけどね」
「気に入ったお洋服があったから、『これあつらえて』って言ったの」
「はあ?」
「よく分かるわね。お店の人もそういう顔したよ」
「だって、高級とはいえ、吊るしの既製服だから。そのまま買えばいいじゃない」
「へえ、そうなんだあ。でも人って、体形が違うでしょ」
「だから、大体合うサイズで決めるんだよ」
「ふーん。でもぴったりじゃないよお。お洋服はスジャータよりウエストは太いのに、お胸は小さいよ。スラックスはスジャータよりウエストが太いのに、足が随分と短いよ。つんつるてんだよお」

「そりゃあスジャータちゃんみたいな、『モデルさん以上の体型』に合わせたら、着られる人が限られてくるからね。商売だから、どうしてもそうなるのは仕方がないことなんだ。でもね、そういうことは、あんまり他所では言わないほうがいいよ」
「どおして?」
「庶民には、嫉妬という感情があるからね」
「ふーん。わかった。スジャータ、言わないようにするよ。でも、ぴったりしないのは事実だもの」
「庶民は気にしないんだよ。大体で良いんだ。ウエストなんか、詰めてもらえばいいじゃないか。補正してもらえるんだよ」

「へえ、そうなんだ。でも、スジャータこれが欲しいって言ったのに、そのままでも売ってくれなかったよ」
「どうして?お金持ってったんでしょ」

「持ってかない」
「じゃあだめだ。それで帰ってきたんだ」
「ううん。違うみたい。一緒についてきた執事と店員さんとが話をしていたと思ったら、血相変えた店員さんに奥の部屋へ案内された」

「丁寧なお店だね」
「そうかなあ・・・・。待ってたら、お茶が出てきて、店長さんが出てきた」
「へえ、それはおおごとだ」
「店長さんに、『これから先生が、スジャータ様にご挨拶させていただきたいということですので、しばらくお待ちください』って言われちゃった」
「それで?」

「待ってたら、先生がハンカチで汗を拭きながら、慌てて入ってきたの」
「ふむふむ」
「その先生っていうのが、何時もうちにきてくれるデザイナーのおじさんだったから、ご挨拶したの。こんにちわって」
「あらあら」
「それでおじさんに、『このお洋服がほしいよー』って言ったら、『この傾向でお嬢様に似合うデザインを本日中に仕上げて、明日、生地と一緒に何点かお屋敷にお持ちしますので、よろしゅうございますか?』って言われた」
「それはそれは・・・・」

「それで、スジャータが『違うの、これが欲しいの』って言ったのに、それなら、仮縫いまで、明日その場でいたしますからって、取り合ってくれないの。だから、結局何も買わずじまい。スジャータ、お買い物失敗しちゃってつまんない。酷い話でしょ?」

「・・・・・・。ある意味そうだね。でも、お店の人の対応は間違ってなかったと思うよ」
「シルベさんもお店の味方?」
「そうじゃなくて、お店にはお店の立場ってものがあるからね。スジャータちゃんは、オートクチュールで我慢しなさい。その方が世の中、円満に収まるんだよ」

「でも、初めてお買い物に行ったスジャータの立場はどうなるのさあ。ひどいよお。みんなみんな、だいっきらい!」

スジャータちゃんは憤懣やるかたない表情で地団太を踏んだ。

【ファイルK1】不快なトラックバック記事について 2006.08.17

 
【ファイルK1】2006.08.17不快なトラックバック記事について

 こんにちは、はじめまして。私はスジャータ様やノレン様のボディーガードを勤めております、『まあくん』です。いつもスジャータ様やノレン様がお世話になっております。

 まことに差し出がましいようで恐縮ですが、上記の件につきまして、下記の通りYahoo!様に照会をいたしました。

 以下が質問です。

最近女性管理者のブログにおいて、『~』というトラックバック記事を頻繁に見かけます。当然、皆さんリンクを削除されているらしいのですが、標題履歴は残ったままで非常に不愉快です。
① トラックバックの標題履歴を削除する方法をご教示ください。
② Yahoo!様で調査の上、当該悪質管理者を貴社のブログから排除することはできないのでしょうか。善処方よろしくお願いいたします。

そして、以下が、Yahoo!様からの回答です。

■不快なトラックバックについて

 ご指摘くださいました不快なトラックバックのリンクについてですがこちらで個別にお客様のブログのリンクを拒否または削除などの対応は行っておりません。お手数をおかけいたしますが、何卒ご理解ください。

 トラックバックはご存知の通り、作者に通知をしながらリンクをする機能です。これをきっかけにインターネット上でのコミュニケーションの幅を広げてゆくことが前提となります。

 Yahoo!ブログは、トラックバックだけを拒否することはできない仕様とさせていただいております。

 なお、トラックバックされた記事のリンクを削除することは可能です。
 以下の手順をお試しください。

1.削除したいトラックバック記事の横のオレンジ背景の×ボタンを
 クリックしてください。

2.「本当に削除しますか?」と表示されますので、[OK]をクリック
 すると削除されます。

※ご自身のブログにログインした状態で操作する必要がございます。

 また、新規投稿の際[コメント投稿]の可・不可で[不可]にチェックを入れて投稿していただくと、その記事へのコメント投稿ができなくなり、同時にトラックバックも貼ることができなくなります。コメント投稿とトラックバック同時に拒否する設定となりますが、よろしければお試しください。

 ご指摘くださいましたような不快なトラックバックも含め、Yahoo!ブログに対するSPAM行為などの悪意ある利用に関しましては、弊社でも決して許容することなく、今後の運営に際して調査や検討、実施を行ってまいります。

 Yahoo!ブログはお客様からいただくご意見を考慮しながらシステムの改善、安全運用 を行ってまいりますので、お気づきの点やご要望がございましたら Yahoo!ブログカスタマーサービスまでお知らせくださいますと幸いです。

■メニュー欄に不快なトラックバックのリンクが残る件について

 現在のところ、トラックバックのリンクよりも先に、該当記事を削除されると履歴に残る場合がございます。お手数ですが、先に、トラックバックのリンクを削除していただきますようお願い申し上げます。

 なお、メニュー欄の履歴の削除を希望される場合は、その旨を該当のブログ管理者様より直接お問い合わせください。

 ご連絡には下記URLのヘルプページをご利用ください。
◇Yahoo!ブログヘルプページ
http://help.yahoo.co.jp/help/jp/blog/

 こちらの各ヘルプ項目をご覧いただき、ページ下にございます、
[いいえ]ボタンをクリックしていただきますと、報告フォームが
表示されます。

 このたびは、お問い合わせくださいまして、ありがとうございました。

 これからもYahoo! JAPANをよろしくお願いします。


Yahoo!ブログカスタマーサービス[749]
blogs-help@mail.yahoo.co.jp

http://blogs.yahoo.co.jp/

「Yahoo!知恵袋」もご活用ください
http://chiebukuro.yahoo.co.jp/


※  ※  ※


 以上です。

 Yahoo!様におかれましては、迅速な回答ありがとうございます。
 この場をお借りして御礼申し上げます。


 被害にあわれた方は、ご参照ください。

 なお、この手の悪質管理者は無視してくださるようお願いいたします。

 本当に頭にくるなあ!スジャータ、かんかんだよお。だから、まあくんに言いつけちゃった。
 みんな、こんな人にめげないで、ブログを楽しもうね!まあくんがついてるよ!

【ファイル8】スジャータちゃんが連れてきた 2006.08.15



【ファイル8】2006.08.15スジャータちゃんが連れてきた

 今日のスジャータちゃんは、すこぶる機嫌がよろしい。シューベルトの『野ばら』のメロディーをハミングしながら、何だかとてもそわそわしている。
「スジャータちゃん。やけに楽しそうだね。一体どうしたんだい?」
 私は不吉な胸騒ぎを覚えながら、スジャータちゃんに訊ねた。

「いいものがあるんだ」
 スジャータちゃんは可愛いらしい、大きな目をくりくりと動かした。

「連れてきたんだよお」
「誰を?」
「へへえ。いい人っ!」

 スジャータちゃんがパチンと指を鳴らすと、作業着を着た運送会社の若者2人が、大型冷蔵庫程の大きさの木箱を部屋に運び入れた。
 彼等はバールで木箱を解体し始めた。
 中から、ムシロが巻きつけられ、荒縄で縛られたドンゴロスの袋が現れた。
 所謂、簀巻きの状態だ。
 袋は蓑虫のように蠢いている。中に人が入っているようだ。
 スジャータちゃんが、袋を開くと、案の定、人が出てきた。
「あー苦しかった。あー酷い目にあった」
 それは、40絡みのしょぼくれた中年男性だった。

「ここは晴海埠頭かな?これから、コンクリートに漬けられるのかな。あれ、ものすごい美女がいる。ひょっとして、もうあの世かな?天国の女神様かな?」

「ちがうよお。ここは普通のお部屋だよ」
「あっ。君はあの時の!
 どうして、こんな酷いことをするんだ。あー苦しかった」
 男は肩で息をしながら抗議した。

「でも、空気穴あけて、キュウリとおナスは入れてあるよお」
「僕はキリギリスじゃありません!」

 私は彼の顔をみるなり、驚いて聞いた。
「スジャータちゃん。これはひょっとして、私のモデルではありませんか?」
「そうだよ。探しちゃった・・・・」
 私はスジャータちゃんの、余りの無邪気さにあきれ果ててしまった。彼の探索に、またぞろ莫大な調査費がかかったに違いないのだ。

「ということは、スジャータちゃんって貴女なんですか?」
 私のモデルが興奮して訊ねた。
「そーだよお」
「わあ、感激だなあ!」
「おじさんって、スジャータのこと知ってるの?」
「知っていますよ。僕は貴女のファンなんです。ブログで読みましたから。ということは、ヴァレンタインデーにチョコレートを買った中年って僕のことだったんだ。気がつかなかったなあ」
「おじさん、気がつけよ。そんな人間、世の中にそうそういないだろ?」とノレン君は言った。その語気には、明らかに苛立ちの棘が含まれていた。

「それで、あなたは、どうやってここに連れてこられたのです」
 私は彼の身を案じて聴いた。

「新宿末廣亭に落語を聴きにいこうと思って、歩いていたら、もの凄い美人=今考えたらスジャータちゃんだったんですけど、が声をかけてきたんです。
『ねえ、おじさん、わたしとデートしない?ついてきたら、ジャン=ポール・エヴァンのチョコレートご馳走するよお』って」

「それでついていったの?」ノレン君が呆れて聴いた。
「だって、ジャン=ポール・エヴァンですよ」
「たかがチョコレートじゃないか。おじさん、アンタは子供か?」いつもしらっとしているノレン君がついに怒り出した。

「ジャン=ポール・エヴァンはたかがチョコレートじゃありません。されどチョコレートです!」
「でも、大のおとなが、おびき寄せられることはないだろ」
「面目しだいもない」

「それで、スジャータちゃんはジャン=ポール・エヴァンのチョコレートをご馳走するって言ってたのに、伊勢丹デパートからはだんだん離れて、真昼のゴールデン街の人気のない路地裏に向かうじゃないですか。それで不審に思った瞬間、目の前が真っ暗になって、その後さっぱり覚えていないんです」

「そりゃあそうだよ。クロロホルム嗅がせたんだもの」

「スジャータちゃんのいるアトモス部屋なら、なにもそんなことしなくても、『来て欲しい』って言ってくれれば喜んで行くのに」

「だって、それじゃあ、サプライズがなくてスジャータつまんないよお」
「サプライズのために僕を拉致したんですか?」

「拉致じゃないよお。拉致は無理やり連れて来るんだよ。おじさんは、チョコにつられてスジャータの後をホイホイついてきたんだから、誘拐だよお」
「どっちでも同じです!」

「スジャータちゃん。例え『大のおとな』が『チョコレートごとき』に『ホイホイついてくるほうの誘拐』でも、立派な『犯罪』ですぞ!」
 ドブロクスキー博士が、厳しくたしなめた。

「あのお、御老体。今叱られたのは、スジャータちゃんのほうですよね。それなのに、どうして今僕は、凄く『いたたまれない気持ち』がするのでしょうか?」
 ドブロクスキー博士は呆れてものが言えない様子だった。

 その時、美人の女性執事が、チョコレートを載せた皿を2皿持ってきて、『お詫びに、これでも召し上がれ』と言いながら、おじさんの前に差し出した。
「ややっ、ジャン=ポール・エヴァンのボワットゥ ドゥ ショコラとマカロンではありませんか。まだあるんですか?あれまあ、これは、お店の喫茶コーナーの、しかも夏場は売っていないマカロンショコラ アラシェンヌですねえ!これはこれは、流石は上流階級の方のなさることは違うなあ。感激だなあ!」

 おじさんは、とたんに顔をほころばせ、いただきますと言って、一心不乱に食べ始めた。
 彼の柔和で幸せそうな表情には、周囲の人の心を和ませ、穏やかにさせるような何かが宿っていた。それは小春日和の陽だまりのような、穏やかで心あたたまる情景だった。彼の背中には後光が射していた。
 
 スジャータちゃんは私のモデルの男をしげしげと見て呟いた。

「でも、確かに目鼻立ちはそっくりなのに、眼とろん星人さんほどハンサムじゃないよお」

「それは、確かに各パーツはそのままなんだけど。それを配置するに当たっては、それなりの修正を施したからね」
「それはどういう意味ですか!」
 モデルのおじさんは気色ばんで聞いた。

「当然だろう。私も、自分自身の身体を作るにあたって、美的要求を満たしたいからね。つまりあれです。美意識の成せる業です」
「すみませんねえ。私の顔の配置が眼とろん星人さんの美的要求を満たしていなくて・・・・。そりゃあ、悪うござんしたよ」男はむくれた。

「でもさあ。モデルのおじさんも、一般基準でいったら、なかなかハンサムだよお」
「今更、とってつけたようなお世辞なんか言わないでください」
「本当だよお」
「姉貴はそういうことに関して、絶対に嘘は言わないよ」ノレン君が、犬に餌を投げ与えるように、ぼそりと言った。

「えっ。本当ですか?」
 私のモデルはだらしなく鼻の下を伸ばした。私は激しい後悔の念を覚えた。

「おじさんは庶民でしょ。庶民に会えて、スジャータ嬉しいよ。
 スジャータは庶民が好きだよ。庶民の味方だよ」

「何かその言い方、腹がたつなあ。特に金持ちに言われると・・・。とにかく、この部屋では、芸名を使わなけりゃならないようだから、僕も使おう」

「別にそんな決まりはありませんけど」私は慌てて否定した。

「僕はランボーのファンなんだ。アルチュール・ランボーの方だけど。でも、ランボーなんて芸名をつけたら、乱暴者みたいだから・・・・。

 そうだ!
 映画のほうの『ランボー』にひっかけて、シルベ・スタスタローンってのはどうかな」

「シルベスタ・スタローン?」
「違う。シルベで一回区切って、スタスタローンが名前。
 日本語で書くと、汁部 須田酢太月賦」
「月賦って何?」
「昔は月払いローンのことを月賦(げっぷ)って言ったの!
 例えば、『お隣カラーテレビを買ったらしいわねえ。うらやましいわ』『でも、どうせ月賦でしょ』ってな具合に使ってた。昔は月賦で物を買うっていうのは恥ずかしかったのに、金融屋が、それを誤魔化すために、『ローン』っていう言葉を使い出した。馬鹿な庶民はそれに引っかかって、月賦を恥とも何とも思わなくなった。それで、多重債務で自己破産してりゃあ世話ないよね」
「さすが、庶民は物知りだ」ノレン君は感に堪えたように唸った。
「私たち、庶民の暮らしを知らないものね」
「そう。生まれてこの方、貧乏とは全く縁が無かったし」
「うらやましいわあ」
「本当にうらやましい」

「その言い方、本当に腹立つなあ!」

 これから、アトモス部屋では、彼の意思を尊重して、シルベさんと表記することにしよう。

「それで、シルベさん。これも何かの縁だから、スジャータの先生になってちょうだいね。
『庶民学』の先生だよ。
 スジャータ庶民に興味があるよ。とってもとっても興味があるよ」

「はいっ。分かりました」
 シルベさんは直立不動の姿勢で答えた。

「そんなに気安く引き受けて、大丈夫かな?姉貴は我儘だからね。シルベさん注意しなよ」
 ノレン君は、心からシルベさんのことを気の毒に思っているようだった。

※※ ※

シルベさんが仲間に加わった。

【ファイル7】地球生活用身体モデル(その2) 2006.08.12


【ファイル7】2006.08.12 地球生活用身体モデル(その2)
 
「それで、結局、モデルの遺伝子情報は、どうやって入手なさったのですか?」
 ノレンくんは、膝を乗り出した。

「それなんだよ。日本では、毎年2月14日に『バンアレン帯の日』って行事があるだろ?『バンアレン帯(地球をドーナツ状に取り巻く放射線帯)』を発見したアメリカはアイオワ大学の物理学者ジェームズ・バンアレン氏は、つい先日の2006年8月9日、91歳で惜しくも亡くなったところだね。この場を借りて、ご冥福をお祈りするよ」

「『バンアレン帯の日』?ちがうよお。ヴァレンタインデーだよ」
「失敬失敬。その日は、チョコレートを女性が男性に贈るらしいね」

「それは、神戸にある、『モロゾフ洋菓子店』が商売のためにでっちあげた風習じゃな」
 ドブロクスキー博士が、口を挿んだ。

「お爺ちゃん、チョコレート会社のことに詳しいんだ。スジャータ意外だよお」

「神戸でチョコレートを作っている『モロゾフ』も『ゴンチャロフ』も、ワシの祖父と同じ亡命白系ロシア人が創立した会社じゃからのう」
「へえー。それで知っているんだ」

「その日、私の遺伝子情報採取マシンは、私のモデルを探すために、都会の雑踏に向った。誠実で優しい人間を探すために」
「へえー面白いなあ」
「それで、マシンは、とあるチョコレートを販売している店先に着いた」
「それで?」ノレン君がごくりと生唾を飲みこんだ。

「マシンの内臓カメラが送信してくる画像モニターには、大勢の女性に混じって、場違いな中年男性の姿が映っていた」

「変なのお」
「そうなんだ。変なんだよ。その時の彼は、切実にチョコレートが買いたかったんだ」
「チョコレートなんか、日持ちするじゃないか。なにもわざわざヴァレンタインデーみたいなややこしい日に買いに行かなくても、いいと思うけどなあ」
「しかし、その時彼が食べたかったのは新鮮な生チョコレートだった」
「本当に変なのお!」

「そう、彼は、周囲の女性達から、冷ややかな目で見られていたね。女性たちの視線は明らかにこう語っていた。『この人、もてないんだわ。それで、ヴァレンタインデーに、チョコレートをもらえないもんだから、見栄をはって、自分でチョコレートを買って、貰ったって自慢する魂胆なのね。いやらしいわ。女性の敵だわ』
 中には、偶然を装って、肘で小突く意地悪な女性もいた。女性というのは集団になると、とても残酷だからね。彼は夥しい本数の冷酷な視線が体に突き刺さる針のような心の痛みと、執拗な意地悪に身をすくませ、怯え、親を見失った雛鳥のように小刻みに震えていた。手にしっかりと生チョコの箱を握りしめながら」

「生チョコの箱を握りしめたら、体温でとけちゃうよお。かわいそーだねー。みじめだねー。哀れだねー。スジャータ泣けてきちゃうよ」

「そうなんだ。彼はかわいそうなんだ。みじめなんだ。哀れなんだ。周りの冷たい視線に耐え抜いて、レジの行列を見事並びきり、彼は漸くチョコレートを手に入れた。そして、喜び勇んで足早に家に帰った。 まさにそれは奇跡の生還ともいうべき快挙だった。

 そして、薄暗いアパートの小部屋の片隅で泣きながら、握りこぶしで溢れ出る涙を拭いながら、おいしいおいしいって、チョコレートを食べたんだ。きっとその味は、ビターチョコよりもずっとほろ苦いものだったに違いない。彼はそれほどまでして、チョコレートが食べたかったんだね」

「いい話だねえ。スジャータ感動しちゃったよ」
「そうかなあ。俺には馬鹿馬鹿しい話に思えて仕方ないけどなあ!」
「ノレン、黙りなさい。あんた生意気よ」

「彼は本当にチョコレートが好きらしいんだな。チョコレート道を極めようとしている求道者なんだ。それは、きっと辛くて長い道のりなんだろう。

 私は、躊躇なくマシンに彼の遺伝子採取を命じた。チョコレートの原料カカオには、善良で誠実な人にしか反応しない特別な成分が含まれているんだ。その成分は、眼とろん星人の知性を育むにあたって、必須の栄養素だからね。
 そうなんだ。彼は善良なんだ。そして、なによりも、正真正銘の庶民なんだ。マシンは彼の毛髪を一本拝借した。それで私の体のプロトタイプが完成したんだ。
私の話は以上だ」

「庶民なんだ・・・・・」
スジャータちゃんは大きな目を輝かせて遠くを見つめ、歌うように呟いた。
「スジャータ、その人に会ってみたいな!」

「それは無理だろうね。彼がどこの誰かは私にも分からない。私は、マシンが映し出す映像を、内蔵カメラを通して確認しただけだから」
「ふーん。その人、チョコレートが好きなんだね。そうか。そうなんだ・・・・」
 
スジャータちゃんは自分の言葉の余韻を味わうかのように、うっとりとした表情で微笑んでいた。


【ファイル6】地球生活用身体モデル(その1) 2006.08.11


【ファイル6】2006.08.11 地球生活用身体モデル(その1)

 今日も、スジャータちゃん、ドブロクスキー博士、ノレン君がアトモス部屋を訪れた。
 
 部屋に入ってくるなり、スジャータちゃんが私に聴いた。

「眼とろん星人さんは、対象生物の遺伝子を利用して地球人の姿に変容したって言ってたよね」
「そうだね。ゲノムを利用したんだ」
「ということは、地球人の誰かの遺伝子を利用したわけだ」
「よく気がついたね」
「それって、だあれ?」
 私はドブロクスキー博士の顔色を伺った。彼は半眼になって何か瞑想しているようだった。

「その選定に当たっては、いろいろ苦労をしたんだよ」
「じゃあ、教えてよ」
「地球生活用の身体モデルの選定というのは慎重に行わなければならない。それで、私は旧友のウルトラセブン君に意見を聞くことにした」
「ウルトラセブンって、円谷プロが作った『メトロン星人』の出てくる、特撮ドラマのあれのことですか?」
 ノレン君が、驚きの表情も露わに聞き返した。

「ああ、あれはセブン君の実体験に基づいた話だ。少々、セブン君が格好良すぎるけれどね。本当の彼は、結構短気で喧嘩っ早いんだ」
「あの番組に登場する『メトロン星人』は、眼とろん星人さんのように、蛸型ではありませんでしたね」
「それは、番組制作上の都合だろう。蛸の着ぐるみに、人間は入りにくいからね」
「それで、番組では、メトロン星人はウルトラセブンの放ったアイスラッガーで一刀両断。エメリウム光線で爆破されて絶命しましたね」

「セブン君は私と大の仲良しだったし、冗談が好きな奴だったから、悪戯心を起こして気心の知れた私のエピソードを作る際に、そんな話をでっちあげたんだろう。
 メトロン星人が、貧乏臭い木造賃貸アパートに住んでいるという設定は秀逸だったね。セブン君とメトロン星人とが胡坐をかいて、卓袱台を挿んで話すシーンも印象的だった。それから、夕日を背にし、ストップモーションを多用した素敵な決闘シーンは、当該シリーズ屈指のものだ。それがセブン君の私に対する友情の証だと分かって、とても嬉しかった」

「そうだったんですか」
 ノレン君は感心しきりだった。
「それで、私が地球漂着直後に、私の遭遇した事故を知った彼が、ひょっこりと訪ねてきた」

「えっ!ウルトラセブンは、まだ地球にいるんですか?」
「そうなんだ。しかし、これは内緒だよ。彼は一旦、故郷のM78星雲に帰りかけたものの、アンヌ隊員に対する思慕の情が、早い話、未練が断ち切れなくてね。ひっそりと地球に帰ってきたそうだ。
 それで、アンヌ隊員に会いに行こうとしたら、彼女は既に結婚していた後だったんだ。あとの祭りってやつだね。地球人の女って、所詮そういうものだよ。薄情だね」
「セブンさんかわいそー」

「そうなんだ。とても気の毒だった。その時のセブン君は荒れたねえ。エメリウム光線で街を焼き尽くすわ、アイスラッガーで森を根こそぎなぎ払うわ。大騒動だったらしいね。彼から聞いたんだけど」

「でも、そんなニュース聞いたことありませんよ」とノレン君。
「そりゃあそうさ。セブン君は地球のヒーローだし、そんなニュースを世界に配信して、彼の逆鱗に触れたら、それこそ地球の破滅だ。彼は抑止力の埒外にある最終兵器(アルティメット・ウエポン)なんだよ」
「ウルトラセブンって結構悪い奴なんだなあ」
 感に堪えたようにノレン君は唸った。

「セブン君は、自分の地球上での身体モデルを設定するにあたって、ある炭鉱夫の青年の遺伝子を使ったらしいね。
 セブン君がその青年を発見した時、その青年は友人と二人でロッククライミングをしていた。

 そして、事件は起こった。
 青年が滑落したんだ。

 友人と青年はザイルで繋がっていた。命を繋ぐザイルだ。友人は必死で岩にしがみつき持ちこたえようとした。そしてザイルを手繰り寄せ、何とかして青年を救おうとした。しかしハーケンは今にも抜けそうだし、その体勢で二人分の体重を一人で支えるのが無理なことは分かりきっている。このままだと友人を道連れに二人とも転落して死んでしまう。だから、青年は自らのナイフでザイルを切ったんだ。犠牲者は自分ひとりだけで十分だってね。
 実に勇敢な青年だ。セブン君は200m下の谷底に落下していく青年を危機一髪救った。そして、その青年を自分のモデルにしたんだね。それが地球上でのセブン君の姿、諸星ダンのモデルだったんだ」

「それは有名なエピソードですね。テレビシリーズでは第17話『地底GO!GO!GO!』に出てきます。ウルトラセブン=諸星ダンのモデルの青年の名は次郎君です」ノレン君は、どうやらセブン君のファンらしい。

「私はセブン君の話を聴いて早速、山岳地帯にモデル遺伝子採取用マシンを派遣したんだ。別に二匹目の泥鰌を狙おうってわけでもなかったけれど、山にはなにかあるかもしれないと思ってね」

「そこで、なにかありましたか?」

「それが、あったんだ。

 マシンはアイガーに到着した。それは光学マントで遮蔽しているから、勿論、人の目にはつかない。
 折りしも、北壁を一人で登攀していた勇敢な青年の姿を発見することが出来た。
 しかし、彼はその直前に、滑落した友を失っていた。
 時、既に遅しだね。

 彼は必死に歯を食いしばって、最後のオーバーハングを克服したところだった。

 眼前には夢にまで見た山頂が、まるで彼を招くかのように、その威容を露わにしている。彼はその峻厳な光景に、つい先程失った友人のことを想って、涙にくれた。

 その時だ。天から轟音が聞こえたのは。
 それは、ヘリコプターの飛来する音だった。
 ヘリコプターの扉から、するすると縄梯子が垂れてきたかと思ったら、二人の人影が現れた。
 一人は女性で、一人は男性だった。男性はテレビカメラを携えていた。
 女性は山頂に立つと、マイクを握りしめ、頭のてっぺんから抜けるような素っ頓狂な声で喋り始めた。 カメラマンはそれを撮影している。

『みなさーん。私が何処にいるか、分かりますかあー』
 それは知性のかけらも無い喋り方だった。

『ここは、アイガーの山頂です。どうです、驚いたでしょう!』
 体中に自己顕示欲を漲らせた彼女は、まるで勝ち誇ったかのように大袈裟に絶叫していた。私は、彼女の非常識な行動に心底驚いた。

 次の瞬間、私の表情は凍りついた。彼女の背後に、友人の命という大きな犠牲と引き換えに、死ぬ思いで北壁アタック登頂に成功したばかりの、アルピニストが姿を現したから。
 思う間もなく。彼は手に持っていたピッケルを振りかざし、渾身の力を込めて振り下ろした。

 ピッケルは、アナウンサーの頭頂部に突き刺さり、そこから、朱色の鮮血が、ぴゅうぴゅうと、噴水のように迸った。
 当然、彼女は即死だ。驚いたカメラマンは、彼に突進した。
 カメラマンとアルピニストはそのままバランスを失って、縺れながら奈落の底に落ちていった。
 その刹那、ヘリコプターは風に煽られ、山腹に激突し、炎上した。
 それは、あっという間の出来事だった。とても悲惨な光景だった。
 
 私は、その時、地球人には、絶対してはならないことの行動規範が存在しないことを知って、絶望した。

 結局、その日マシンは、モデルの遺伝子は採取できなかった。

 その体験により私は悟った。モデルは庶民が良いんだ。周囲の世界に溶け込めるように。そして、誠実で優しい人間が一番だ。これは、自分の知性を維持するための第一条件なんだ。勇敢に越した事は無いが、それは拘泥すべき条件ではない」
 (その2へ続く) 

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眼とろん星人

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